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最高裁判所第三小法廷 昭和57年(あ)323号 決定 1982年10月08日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人井関和彦の上告趣意は、憲法三一条違反をいう点を含め、その実質は単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、原判決及びその是認する第一審判決の認定するところによれば、被告人は、所論の各けん銃を個々の部品に分解し、これを一括して小型ロッカー内に収納・保管していたものであるところ、これら部品を組立てかつ修理して容易に発射機能を備えたけん銃に復元することができるというのであるから、右のようにけん銃を分解したままその部品を一括保管していた被告人の所為が銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号所定のけん銃の所持にあたるとした原判断は、正当である。

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(伊藤正己 横井大三 木戸口久治)

弁護人井関和彦の上告趣意

一、第一、二審判決は銃砲刀剣類所持等取締法第二条定義「この法律において『銃砲』とは、けん銃……その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲……をいう」と定義され、右取締法によつて刑罰に処せられる所持の客体を明定している。

しかるに本件公訴事実による被告人の保管していた物体は、決して金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲とはいえない。

第一、二審判決で、特に第一審判決中の罪となるべき事実第一の回転弾倉式改造けん銃について認定された客体は、到底けん銃とはいえない。

被告人が保管していたのは、けん銃を構成する部品でありかつ部品の全部でなく一部である。しかも右部品を組立てたけん銃様物体はその物自体の操作、作動では金属弾丸の発射機能を有しないこと証拠上(鑑定書)明らかなのである。

第一、二審判決は、右客体に関する処罰構成要件を極めて拡大緩和して解釈しているが、刑罰規定を右判決のように緩和、拡大して解釈することは、罪刑法定主義の大原則に違反し憲法第三一条に違反すると思料する。

二、前記取締法がけん銃の法定除外事由のない所持を禁止するのは、けん銃使用による人畜の殺傷の危険を、あらかじめ所持の段階で防止しようとするものである。従つてその「けん銃」は現実に殺傷の危険性あるもの即ち「金属性弾丸を発射する機能を有する」ものでなくてはならず又機能を有することで足りるのである。

これを更に一歩進めて現実に右機能を有ぜずとも、或る条件を補充することによつて機能を有するに至る物品の所持まで拡大することは、第一に構成要件をあいまいにし、第二に従つて裁判官の恣意的判断の余地を拡大し被告人の地位を極めて不安定にし、第三に危険性を恐れるあまり要件を益々拡大させる歯どめを失うという諸点から考えて刑罰法規解釈の根幹をゆるがすものである。

成程けん銃を組立て、構成させるに足る部品を所持することは前記法益の観点から考えて好ましいことではなく、右部品が完全でかつ即時に組立てを了えるような状態で、他の物件と区別されている等、直ちに使用し得るものでなければならないことは、当然の要件であろう。

いわんや部品が他の物品と混在し、揃はず、組立てに一時間以上を要し、そのうえ組立てても発射機能を有しない本件事案にあつて、これを前記法条に言うけん銃というを得ないこと明らかといわねばならない。

三、よつて原判決は法律の解釈を誤まりひいては憲法三一条に違反するものであつて破棄を免れない。

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